緊急事態宣言下の憲法記念日に憲法について考える

「緊急事態下の憲法記念日に憲法について考える」2020.5.3

 

緊急事態宣言下の憲法記念日に憲法について考える

 

1 改めて自由や人権について考えたい 

 現在、新型コロナ感染症の拡大を受け、法律に基づく緊急事態宣言下にあります。まず、感染症にり患し治療や療養をされている方にお見舞い申し上げます。また、自らも感染のリスクにさらされながら日夜奮闘されている医療関係者の方たちや、ライフラインをはじめとする私たちの生活を維持するために仕事を継続してくれている、いわゆるエッセンシャルワーカーの方たちに心からの感謝を申し上げます。 

私たちは今、人との接触を控えるべく様々な行動が制約されています。その結果、子どもたちは学校に行けず、離れた家族に会えなかったり、仕事が失われたり、仕事を自粛せざるを得ない状況に置かれた方など、様々な不都合が生じています。今日は、憲法記念日ですが、日本国憲法が制定されて以来、これほど広範に、国民の権利や自由が制約されたことはありませんでした。 

私たち所沢革新懇は、1984年の結成から昨年までの35年間、毎年5月3日の憲法記念日に、市民と憲法について改めて考えるための宣伝行動を行ってきました。今年は、この宣伝行動を自粛しました。今、最も避けるべきことは、医療が崩壊してしまうほどの感染者が発生し、多くの命が失われたり、どの患者に人工呼吸器をつけるかなどの厳しい選択を医療現場に強いる状況だと考えます。そのためには、宣伝行動を自粛することで、できる限り人と人との接触機会を減らすことが、新型コロナ感染症の拡大を防止し、少しでも医療現場を助けることになると考えたからです。 

 しかし、当然のことですが、新型コロナ感染症対策のためといっても、国民の人権や自由が必要以上に制約されることはあってはなりません。危機的な状況だからこそ、政府や自治体が行っている対策が、本当に必要なものなのか、国民の権利や自由の制約がやむを得ない最小限のものと言えるのか、国民一人ひとりがきちんと判断しなければなりません。そのためには、私たちが判断するための正確な情報や説明が政府や自治体から示されなければなりません。また、私たちも何が人権侵害なのか判断できるように人権や自由に対する感覚を研いておかなければなりません。国民の権利や自由や社会の在り方について書かれている憲法について、改めて思い起こさなければなりません。

 

2 憲法に緊急事態条項は必要ありません 

 次に指摘したいのは、新型コロナ感染症が拡大している現在の状況において、一部政治家が、憲法に緊急事態条項を加えるとの憲法改正に言及していることです。 

 自民党が念頭に置いている緊急事態条項は、緊急時に内閣に法律と同様の効力のある政令を制定する権限を認めるというものです。これは内閣に、国会での審議を経ることなく国民の権利や自由を制限できる権限を与えることになります。あらかじめ国会が定めていた法律の範囲内で権限行使を行う、現在の法律に基づく緊急事態宣言とは全く異なるものです。 

 現在の新型コロナ感染症の拡大は、決して憲法に緊急事態条項がないために起こっていることではありません。政府の後手に回った対応や、「アベノマスク」に代表されるような有効性や優先度が疑問視される政策立案、PCR検査を十分に行わなかったことなどによって市中感染が把握しづらくなってしまったこと、十分な補償なき自粛要請が行動自粛の不徹底を招いたことなど、政府の失策による影響が大きいと言わざるを得ません。このような内閣に、自由に国民の権利を制限できる政令をつくる権限が与えられていたとすれば、現状よりもさらに激しい社会の混乱を招いていたのではないでしょうか。 

仮に、新型コロナ感染症に対応すべき法律に足りない部分があるのであれば、法律の改正を国会で審議すればよいのであって、内閣に法律と同様の政令をつくる権限を与える必要性は全くありません。 

現在の状況で、緊急事態条項を加える改憲に言及する政治家に対しては、目の前の私たち国民の苦難をどう支えるかではなく、自らの政治的な思惑を優先しているのではないかとの疑念を持たざるをえません。

 

3 今こそ憲法を生かす政治や社会が必要です 

(1)  選挙がいかに大切か 

 私たちは、新型コロナ感染症の拡大によって多くのことを認識させられました。その1つは、選挙がいかに大切かということです。 

 もちろん、憲法には国民主権が(うた)われ、国政においても地方自治体においても選挙が制度の根幹をなしています。しかし、これまで選挙は自分の生活に関係がないと考えたり、選挙で候補者や政党をきちんと選ぶことの大切さを意識しないことも多かったのではないでしょうか。 

 現在、政府の対策が遅れたり不十分にしかなされない中、自治体ごとに独自の対応がなされています。これまで、自分の住んでいる都道府県の知事がどんな人でどんな仕事をしているか、ここまで切実に関心を持ったことがあったでしょうか。今、多くの人は総理大臣をはじめとする内閣や国会議員が決める政策によって、自分たちや家族の生命や生活が左右されるという実感を強く持っているのではないでしょうか。選挙の際に、候補者や政党を真剣に考え選択することが、自分や家族のために本当に大切なことであるということを私たちは知りました。 

今、私たち一人ひとりの行動が、私たち自身はもちろん、他の人の命や生活を左右するかもしれない局面にいます。このような局面では、政府と国民との間の信頼関係が政策の効果を大きく左右します。政府の政策や発する情報に信頼感が持てなければ、国民がこれに協力することは極めて困難です。私たちの不幸は、この重大な局面に、森友・加計問題や、桜を見る会の私物化等の問題で不誠実な対応に終始し、国民に大きな不信感を持たれる内閣が政権を担っていることです。 

私たちは、憲法に書かれた国民主権や選挙制度の大切さを十分に理解しました。次の選挙の時はこれを十分に生かして、主権者として後悔しない選択ができるはずです。 

そして、国民主権を実現する手段は選挙だけではありません。政府や自治体に国民の願いを届けることは様々な手段で可能です。憲法を生かし国民の願いを大切にする政治を実現しましょう。 

(2)  私たちは多くの人とつながり生きている 

 私たちが認識させられたもう一つは、私たちがいかに多くの人とつながっていて、良くも悪くもお互いに影響しあって生活しているかということです。 

 ドイツのメルケル首相は3月18日の演説で、「私たち一人ひとりがどれほど弱い存在か、他の人の思いやりある行動にどれだけ依存しているか。それをパンデミックは私たちに教えます。それはつまり、どれだけ私たちが力を合わせて行動し、自分たち自身を守れるのか、どれだけお互いに力づけることができるのか、ということでもあります」と述べました。 

 一人ひとりが尊重されながら、他の人を思いやってお互いに力を合わせて社会をつくる。これこそが、個人の尊厳を最も大切にする憲法がめざす社会の在り方です。これを単なる理想と片付けてしまうのではなく、少しでもこの理想に近づけるよう努力することが、いま目の前にある危機を回避するための現実的な手段となっています。

 

4 最後に 

 とても困難な状況で迎えた憲法記念日だからこそ、憲法について改めて考えることが私たちの力になると考えます。このアピールが、憲法について考えるきっかけになれば幸いです。

2020年5月3日

            平和と革新の日本をめざす所沢懇談会(所沢革新懇) 

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