声明:日本学術会議の推薦候補に対する任命拒否に抗議し、撤回を求めます

日本学術会議の推薦候補に対する任命拒否に抗議し、撤回を求めます

 

1 菅首相による任命拒否                              

菅首相は101日、日本学術会議が推薦した105人の新会員候補のうち6人の任命を拒否しました。

 

2 日本学術会議の独立性と学問の自由

日本学術会議は、戦前の学問や科学が、政治権力の介入により戦争に利用されたことの反省を踏まえ、1949年に設立されました。その目的は「科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させること」(日本学術会議法第2条)とされています。「日本学術会議は、独立して左の職務を行う」(同法3条)と規定されており、内閣府の機関ではあるものの、政治から独立して政府の学術政策について提言や勧告を行ってきました。

日本学術会議法の制定過程の国会審議では、「科学者の総意の下に、我が国科学者の代表機関として、このような組織が確立されて、初めて科学による我が国の再建と、科学による世界文化への寄與とが期し得られるのであります。この法案制定の理由は、右のような役割を果し得る新組織、即ち科学者みずからの自主的団体たる日本学術会議を設立するにある」(森戸辰文部大臣。1948615日参議院文教委員会)。「この法案に盛られました内容は、日本学界の最高の審議機関又諮問機関といたしまして、日本学術会議を設け、又日本学術会議が学界の代表機関として内外に臨むことにされたのであります。その所管は内閣総理大臣の所轄となりますけれども、日本学術会議自体は自主的にその職務を行うことが規定されておるのでありまして、科学に関する重要事項は本会議を通して行われることになっておるのであります。」(清水勤二政府委員。同日の文教委員会)と説明され、日本学術会議が我が国の学問研究の代表機関として、自主性や独立性を有することが強調されています。

科学や学問研究の発展のためには、政治的な思惑や介入から独立して自由な研究がなされなければならないことは言うまでもありません。即ち、日本学術会議は、学問の自由を有する我が国の科学者・研究者の代表機関として、政治権力から独立し自主的な運営を行うことによって、個々の科学者・研究者の学問の自由を確保する役割を果たしているといえます。

日本学術会議は、内閣府の所管として税金により運営されていますが、政府から独立し自主的な運営が行われることが、自由な研究を確保し、科学や学問研究の発展に資するとの立場から、これまでの政権も、日本学術会議の独立性や自主性を重んじてきました。

日本学術会議の会員について、日本学術会議の推薦に基づいて首相が任命するという現在の制度になった際も、政府は「学会の方から推薦されたものは拒否しない、その通りの任命をしていく」と国会で答弁してきました。日本学術会議が推薦した候補者を首相が任命を拒否した事例はこれまでありませんでした。

 

3 学問の自由の侵害と国民への背信行為です

菅首相は、今回の6人の任命拒否について、「法に基づいて適切に対応した」、「総合的、俯瞰的な活動を確保する観点から判断した」と繰り返し述べるのみで、具体的な理由を明らかにしようとしません。

任命を拒否された6人は、安全保障法制や共謀罪など、菅首相が官房長官時代に強行採決によって成立させた法案に反対の意見を述べてきました。菅首相が任命拒否の具体的理由を説明できないのは、6人の研究者が政権に批判的な言動を行っていたことを理由としているためと考えざるを得ません。

日本学術会議の推薦を、政権の意に沿わないとの理由で拒否することは、日本学術会議の会員に政権の意に沿う研究を強いることを意味し、政治から独立して自主的に運営されるべき日本学術会議に対する強度の介入となります。これにより代表機関である日本学術会議の独立性や自主性は脅かされ、我が国の科学者や研究者の学問の自由を確保しえなくなってしまいます。任命拒否の理由を明確に説明しないことも、政権の意向を忖度させることにつながり、同様の結果を招来することになります。我が国の学問研究が、時の首相の意向によって左右されることになれば、学問研究の発展は阻害され、現在および将来の国民に重大な不利益が生じてしまいます。

菅首相の任命拒否は、このような意味で学問の自由に対する重大な侵害であると同時に、現在および将来の国民に対する背信行為です。

 

4 批判的意見を敵視する安倍―菅政権のおそろしさ

安倍政権時、教科書検定基準が改訂され、議論のある事項については政府見解を教科書に記載させるように制度が変えられました。小学校から高校までの児童・生徒に必ず政府見解を学ばせることを意味します。今回の任命拒否により、我が国の科学者・研究者が政権の意向に沿わない研究や言動を控えるようになれば、大学や世論においても政権に批判的な言動を押さえつけることにつながります。政権に対する批判的な言動に国民が触れる機会をなくすというのは、時の権力者の夢かもしれませんが、そのような社会は独裁国家のすがたそのものです。安倍―菅政権に顕著にみられる批判的意見の敵視は、民主主義や国民の自由に対する理解を根本的に欠くものとして、強い危惧を抱かざるを得ません。

私たち所沢革新懇は、国民が自由にものを考え、学び、発言することが可能な社会を次世代に引き継ぐため、菅首相による強権的な任命拒否に強く抗議し、撤回を求めます。 

2020年10月9日

 

平和と革新の日本をめざす所沢懇談会(所沢革新懇)

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